雑記帳(Q&Aなど)

寄せられた質問への回答、そのほか日々の資料整理作業の過程で思うことなど、
Q&A方式で随時書き連ねて行きたいと思います。
Q

31.「あづまやの」(「沙羅」)の歌詞 さみだれ「に」、さみだれ「を」?

A

時々問い合わせがあるので、書き留めておきます。
「沙羅」の第二曲「あづまやの」の歌詞で「さみだれに わがとひくれど かどさして」という部分があります。
春秋社版の楽譜は「さみだれに」ですが、巻末の別掲歌詞は「さみだれを」とあります。
そこで各資料を確認してみました。


1 自筆譜 楽譜中 別掲歌詞なし
歌詞原稿未確認
2 浄書譜 楽譜中
3  同 別掲歌詞
4 初版譜(共益商社書店 1936) 楽譜中
5  同 別掲歌詞
6 春秋社版(1950) 楽譜中
7  同 別掲歌詞
8 東京音楽研究会版, 1969(木下保編著) 楽譜中
9  同 別掲歌詞
10 音楽之友社(合唱・木下保編曲) 楽譜中
11  同 別掲歌詞


上の表で、1が「を」で、2を浄書するときに書き間違えたと考えることもできます。
作曲者旧蔵の4は、何箇所か書き込み修正があります。
楽譜中の歌詞で「さみだれに」の「さ」は、訂正書き込みがありますが「に」はそのままで、修正はありません。



作曲者は、何度も演奏者の演奏はもちろん、練習に立ち会ったり、自宅でレッスンを頼まれたりしていてその時には4 や 6、の楽譜を譜面台に置いて、伴奏していました。
畑中良輔先生が「ハラの力が足りません」と言われたというレッスン(SP音源復刻盤「信時潔作品集成」別冊解説書の序文ほか)のあとの演奏会の録音テープを確認したところ、やはり「に」で歌っています。
(1965年7月6日 二期会日本歌曲研究会「第一回演奏会信時潔の夕べ」)

8、9 では、編著者が、別掲歌詞と楽譜中の歌詞が違うことに気づいて、修正したようです。木下保編曲の合唱曲「沙羅」も同じように、「に」になっています。

というわけで、さみだれ「に」と歌って良いのだろうと、私は判断しています。現在のところ、清水重道の原詩は、確認されていません。