雑記帳(Q&Aなど)

寄せられた質問への回答、そのほか日々の資料整理作業の過程で思うことなど、
Q&A方式で随時書き連ねて行きたいと思います。
Q

30.春秋社版『独唱曲集』の「茉莉花」の歌詞中の「微笑」について(2012.06.20)

A

『信時潔独唱曲集』(春秋社) の楽譜(p.153)、および別掲歌詞(後付 p.11)とも、「ほゝゑ」とルビがあるが「ほゝゑみ」ではないか?という質問があり、調べてみました。

大阪開成館(大正十四年四月)の初版譜には、楽譜中は「ほほ-ゑは」とあり、別掲歌詞でも「微笑は」の漢字の横には「ほゝゑ」のルビがあります。
自筆譜は、スケッチが数種あり、書き込みも多く、完全な形の決定稿は残っていません。「ほほゑ」にあたる部分の表記は確認できませんでした。

次に、原詩について、「国立国会図書館デジタル化資料」で確認してみました。『有明集』 蒲原有明 著 (易風社  明41.1)は、信時潔の曲と同じです。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/904712/14

また、『有明詩集』 蒲原有明 著 (アルス 大正11)では、初版の「君が微笑はわが身の痍を」の部分が、「君がほほゑみは、いよゝしみらに」に、つまりルビや送り仮名だけでなく、詩もかなり変わっていました。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/970193/87
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/970193/88

なお、信時潔作曲の「茉莉花」は、初版は大正14年ですが、大正8年に、東京基督教青年会主催の会で、外山国彦の独唱により演奏された記録があります。
信時潔は、おそらく明治41年の『有明集』を手にして、作曲したものと思われます。「寂静」「偶感」「音もなし」「皐月のうた」(未刊)、「おもひで」「ルバイヤットより」「人魚の海」(未完)など、信時作曲の蒲原有明作品は、すべて同詩集に収録されています。

追記(2012.06.21)
畑中良輔先生は、「ほほゑみ」と歌わせていたらしい、という話を聞いたので、2005年8月1日青の会第81回演奏会のDVD(青の会を主宰されていた畑中先生より拝受)を確認してみました。確かに、この時の片岡啓子独唱「茉莉花」(伴奏:塚田佳男)は、「ほほゑ」と歌っていました。